座談会出席者
企画局新交通建設部 新交通建設事務所長 前田 充
神戸新交通KK
技術部電気課長 三木 良夫
同、技術部工務課 建築係長 北川 誠二
同、技術部車両課 車両係長 吉田 耕己
工期の短縮にまず留意
前田 開業まではほんとに無我夢中でやってきた感じで、ホッとしたというのが今の実感です。正直いって、当初はそんな短期間に予定通り出来るかなと非常に心配でしたからね。
三木 開業式の日もずっと中央指令所に詰めていましたが、「やっと出来たんだな!」と何度も喜びをかみしめました。
北川 開業式を見た時は、ポッカリと心の中に穴があいたような気持でした。
吉田 開業式を迎えてホッとする一方で、さぁこれからが大変だと。故障せんように、事故が起こらんようにしなければと。これは会社全員の気持だと思います。
前田 工事をふり返ってみると、いろんなことがありました。土木工事で留意したのは工期の短縮です。通常だと四年近くかかる工事を半分の二年でやろうということですから、工程が非常にきびしかったですね。たとえばポートピア大橋にしても、六甲アイランドで仮組みをして、それをフローテイングクレーン船で運んできて架設するという大ブロックー括架設工法をとりました。これも船の航行と工期短縮をはかるためです。
それから難工事といえば、阪神高速道路と浜手バイパスの間のくぐり抜けですね。昼間は十万台近くの車が通っているわけですから当然夜間工事です。そのため、夜だけ通行止めをして徐々に橋桁を伸ばしていくという手延工法をとったわけです。翌朝の五時なら五時に完全に高速道路として解放せないけませんので、夜の数時間が勝負でした。その他、三宮駅周辺の立退きとか、磯上線沿道の工事に伴う苦情の問題とかいろいろありましたけど、周辺住民の方々や関係官公庁のご協力によって何とか乗り切ることができたわけです。

現在のポートライナー市民広場駅付近から見た高架の桁架設工事。右手の杭打ちはポートピアホテル。これから2年たった今、ちょうど博覧会会場にあたるこの付近を一周すると、その急激な変ぼうぶりにおどろかされる(54年1月)
効を奏したチームワーク
三木 電車線や配電線の敷設にしてもとにかく時間との競争ですから、追い込みの時になると担当係員は連日一週間も二週間も徹夜が続いたわけです。そして昨年六月に島内部の試運転が始まり、九月から全線試運転が始まった時点から、いよいよコンピューター関係の出番ということですからね。在来の電車ですと、人が運転をし、駅務についても人が対応するというやり方ですが、ポートライナーは将来は無人を指向するコンピューターシステ厶ですから、それの精度を上げるということで時聞がかかりました。
北川 私の担当した主な建築物というと、中央指令所のある本社ビル、車両基地、中公園変電所などですが、建物にはコンピューターや電力、通信設備などが入りますから、建物が先に出来上らないとあとのものに全部影響するということで随分せかされたものです。
前田 普通の工事でしたら土木工事がある程度終った時点で、次は電気屋さん入って下さい、あるいは建築にかかって下さいという具合いに流れ作業になるわけですね。ところが今度の場合は、土木工事の終らんうちに電気も入る、建築も入ってくるということで、それをお互いが協力して材料の揚げおろしとかを調整し合いながら、ある程度だぶりながらやって行ったわけです。そのへんの協力というかチームワークが工期を短縮できた大きな原因でしようね。
北川 特に市街地部分は面積のせまい道路上という制約がありましたからね。
三木 思い思いに勝手にやっていたら、とてもこんなにス厶ーズに進まなかったでしょう。
まさにミリ単位の精度
前田 われわれ土木屋としては、何しろ車両の方から非常にきびしいミリ単位の精度を要求されましてね、当然のことながら精度には神経を使いました。車両の走る走行路の高さとか、駅舎と車両の離隔とか、まさにミリ単位の精度です。普通の土木工事ですとそれほどでもないのですが、こと新交通の土木工事については非常に精度が要求されたので、これも今までの土木工事にはなかった経験です。
北川 開業監査の時に、列車通行の安全チェックのため"限界車"という車に運輸省の方々が乗って見て回られたわけですけど、従来の鉄道ですとかなり余裕をもって施設が作られているけれど、新交通の場合は非常にシビアに作られているため限界車が施設に当たりそうに見えてちっとも当たらない。それで全部の検査が終ったあと、「神業に近いなぁ」という言葉も出て感心されていました。
三木 走行路のまん中に敷設してある灰色の台があって、その上に信号関係のループが張ってあるんです。あれが車両と地上とを結ぶ唯一の信号網になっているんですが、これも実に微妙な位置的な調整をやってましてね、離れすぎると列車の方に信号が行きませんし、そのような目に見えない所でも精度が上げられています。
従来の駅にないホームドア
北川 安全面で従来の鉄道の駅に全くないのは、ホームドアじやないかと思いますね。ホー厶ドアが開いてそれから車両のドアがあく。そして車両のドアが締ってからホー厶ドアが締まる。お客さんが落ちたり、あるいは物を落したりの事故を防ぐ事が主眼になりますね。
三木 列車の音がほとんどしませんし、線路内にはナマの電気も通っていますから、やはり安全第一を考えたわけですね。
吉田 ホー厶ドア以外に、この車両は無人を指向していつかはそういうことにしようということですので、何かの時にはお客さんに操作していただくものが二つあるんです。一つは車内にある連絡電話、これを上げていただきますと中央指令所につながって、すぐさま対応できるようになっています。もう一つは、線路上の異常や、車内で何かがあって緊急に電車を止める必要がある時は、車内の非常停止ボタンを押していただく、すると電車は急停車します。そして急停車したあと、さっき申し上げた連絡電話で事情を指令所へ知らせていただきたいわけです。
なお三点目としてお客さんに扱っていただく場合もあるものとして、両先頭車に非常口があります。この電車は燃えませんが万一、お客さんの所持品による何か可燃物の発火というようなことが発生し、緊急に車外へ出なければという場合は、両先頭の非常口をあけて出ていただく。非常口を解放する場合は列車を非常停止させ、電車線を停電させるようになっておりますから線路におりられても安全なようになっております。
エレベーターの感覚で
それから一方、これは私どもも頭の痛いところですが、ポートライナーはよくいわれるようにエレベーターを横にした格好になっていますので、定員以上乗りますと発車できません。一両の定員が七十五名で、これをオーバーしてどんどん乗りますと車両の中央に定員超過の表示が出て、同時にベルが鳴ります。この場合はあとから乗った人におりていただく。エレベーターですと、ブザーが鳴ると入口に近い人がお互いに顔を見合わせておりるということがありますが、電車の場合はお客さんがまだなれていませんから、最初のうちは多少の戸惑いはあるかも知れませんね。
三木 エレベーターの場合もかなりの日数がかかって、最近は常識になったわけですから、電車の方も、ああいう乗物だということがわかっていただければ、エレベーターのような感覚になってもらえるのではないでしようかね。
北川 定員超過でベルが鳴った時は奥の方の人が隣りの車両へ移ったのでベルが止ってドアがしまり、発車できたと聞いています。
注目の的"新システム"
吉田 快適に乗るためにも三々五々わかれて乗ってもらうといいんですけど、心理的にも前の車両へ乗りたいということでかたまってしまうんですね。それと、ホー厶ドアもそうですが、車両のドアは何かをはさむと開くようになっていて電車は動きません。腕をはさんだまま走り出すということはないんです。これも乗客の安全を考えてそうしたわけで、無理なかけ込み乗車やいたずらはしないように、お客さんのマナーに訴えたいところですね。
三木 車内はもちろん各ホームも全部テレビで監視しています。券売機のあたりも監視していますから、いたずらされておりますとすぐわかります。そういう時は中央指令所から放送で「やめて下さい」ということになります。
前田 日本はもちろん諸外国でも注目している新しいシステムですから、当然乗られるお客さんもいいマナー、いい感覚をもっていただければということですね。
吉田 このシステ厶はお客さんのいいマナーの上に成り立っているといえますので、その意味でお客さんのご協力をお願いしたいと思いますね。